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苺な彼とビールな僕

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. 夢で逢えたら 22









~Yside~






チャンミンがアメリカへと渡ってからもう一ヶ月が過ぎた




彼と現実で出逢ってからは、その…夢の中で一番逢うことはなくなっていたけど、これだけ遠く離れてしまえば、また夢で逢えるんじゃないかって俺達は思っていた



でも、実際はそううまくはいかなくて、チャンミンが怒って電話してきたりして色々あったけど



どうやら同じ時間帯に眠ると逢える確率が上がるみたいで



……いったいどういう法則なんだか(笑)




ずっと逢えていたときは抑えていた俺だけど、君と離れてから夢の中では歯止めが効かないっていうか、愛しさが止まらなくて



もっと君を知りたくて、触れたくて……つい、強引にして夢の中の君を泣かせたりして



俺って思ったより君に依存してる、なんて変に実感してしまうよ/////




いよいよ迎えた手術の日は、朝から落ち着かなくて仕事なんて全く手につかなかったけど




とりあえず無事に終わったって連絡があったときは、本当に神様に感謝をしたんだ




実と言うと、夢の中でまた君を連れて行かれそうになって、でも、今度は俺もちゃんと動く事が出来て、しっかりと細い腕を掴むことができた



夢の中の君は俺の腕の中でそのまま眠ってしまったから、もしかしたら覚えていないかもしれないけど




とにかく手術の経過は良好で、チャンミンは体調を見て帰国の許可を待つだけとなったんだ


















. 愛の詩をきかせて ~仔鹿君の憂鬱~ 22






~Yside~




テラスでの食事を済ませると、また祖父の書斎で一緒に本を見て過ごした



都会の喧騒からは離れたここは、ゆったりと時間が流れているようで



パクさんは夕方に戻るといって出ていっていたからここには君と二人きり



なのに君はすっかり本に夢中で……



悔しくて後ろからちょっかいをかけてやったら真っ赤な顔で怒るから笑ってしまった



ポケットで震えるスマホは着信を告げていたけど、せっかくの二人の時間を邪魔されたくなくて電源を切ってやった



「ユノさん電話ですか?/////」


「いや、大丈夫だ」


「そう……ですか?/////」



少し不安そうに俺を見つめるバンビアイ、何も心配することはないのに


「おいで」


「……あ/////」


「キスしたい」


「ダ、ダメ……んっ/////」


「どうして?ここには誰もいないのに」



耳の縁を甘噛みしながら問いかければ、体を震わせて身を捩る君



全てが俺を煽ってるってわかってる?



「少し触れたい、ダメ?」


「……でも…あっ/////」


「いい加減諦めて?」


「……んっ…ユノさ……/////」




細い腕を引いて強く抱き寄せると、真っ赤染まった君をソファへと沈めたんだ























. 夢で逢えたら 21








~Cside~





僕は今アメリカにいて、手術を受けるべく検査とか必要な治療とか、毎日を忙しく過ごしている



……ユノとは相変わらず、その……ラブラブだって思う/////



見送りの時は悲しくて、周りが見えないほど二人だけの世界を作っちゃって、うちの両親とか、わざわざ来てくれた担当のイ先生とかに呆れられてしまったけど/////



……きっと夢で逢える気がしていたから



でも……いざ向こうに行ってみると、ユノってば全然夢の中に出て来てくれないから、腹が立った僕は抗議の電話をかけてやったんだけど



僕達、時差があるの忘れてたんだよね/////



どうやら僕達が夢で会うには同じような時間に寝ていないとダメらしい



だから、僕がお昼寝をしたり、ちょっと頑張って変な時間に寝たりして(笑)



やっと逢えた時には嬉しくてつい涙ぐんでしまったけど、ユノが優しく抱きしめてくれたから/////



1つ悩みといえば、現実の僕達はキスまでしかしていないのに、夢の中のユノはやけに積極的で……/////



本人曰く、夢の中の自分は抑えが効かないんだ、なんて/////




この前なんて、凄く大人なキスをされて、力の抜けた僕は、ふわふわの雲の上に押し倒されてしまって



恥ずかしくてこのまま雲の中に逃げてしまいたかったけど、ユノが離してくれるはずもなくて/////



見られたくなかった胸の傷にキスされた時は、思わず泣き出してしまったけど




『これはチャンミンの勲章だから』




そう言ってくれたユノの言葉が嬉しすぎて、結局もっと泣いてしまった僕だったんだ





















. 愛の詩をきかせて ~仔鹿君の憂鬱~ 21








~Cside~






ユノさんに連れてこられた場所は、以前に聞いていたユノさんのお祖父さんの家で…



読書家で本のコレクターでもあったお祖父さんの書庫を、まさか見せて貰えるなんて



目の前に広がる壁一面の本棚は、珍しい本や古い本が沢山あって、ユノさんのお祖父さんがどれだけ本を愛していたかが伝わってくる




そういえばここの本を寄贈する為に図書館に来ていたユノさんに出逢ったんだっけ




テラスでパクさんが用意してくれたクラブハウスサンドを食べながら、ユノさんはポツリポツリと昔の話をしてくれたんだ



「うちの実家はこの近くでね、自転車で15分ほどの所にあって、家に馴染めずにいた俺を祖父がここに連れてきてくれたんだ」


「……ここに、ですか?」


「ああ、ここに連れてこられて何をされるのかって怯えていたらね、本を読むようにって言われてね」


「……本を?」


「俺が本を好きな事をどうやら知っていたらしい、だからよくここで本を読んでいたっけ」


「……ここで?」


「ああ、あの頃は祖母もまだ元気だったから、祖父と一緒にここで暮らしていてね、パクさんが家の事をしてくれていて」



懐かしそうに目を細めるユノさんは、まるで少年のような顔で広い庭を見つめていて



十代の多感な年頃を、そんな境遇でどんな思いをして暮らしていたのか想像もつかないけど



ここはユノさんにとって唯一安らぐ場所だったのかな……?



だったら本を寄贈なんて……あ、でも主人のいない家を置いておくのも辛いのかもしれない



「ここは俺にとって特別なんだ」


「………//////」


「だから君を連れて来たかった」


「……ユノさん/////」




まだ肌寒い春の風の吹く庭で、ユノさんはそっと僕の手を取って、誓うようにキスをしたんだ


















. 夢で逢えたら 20








~Yside~






『チャンミン好きだ』




君に逢ってからずっと言いたかった言葉、溢れ出る想いをとめることなんて出来なかった



君に伝えたくて……



「……ユノ?……んっ/////」



一度重ねてしまった唇は、甘くて優しくて離れるのが辛くなるほどでつい夢中になってしまって



ちゅっ、と音を立てて離れると、潤んだバンビアイが俺を睨みつけていた



「……ユノのバカ!!僕だって……!!/////」


「うん?」


「…い、いきなりキスとかずるい!!/////」


「ん、ごめん/////」


「……僕だってユノのこと……好き/////」



そう言って俺の胸に顔を埋める君は、これ以上ない程に真っ赤になってしまった



俺らしくないな……



前向きだけが取り柄だった筈なのに、君に悲しい顔をさせてしまって



「チャンミン、俺はアメリカにはついて行ってやれないけどさ」


「……うん」


「チャンミンが危ない時はきっと夢の中で助けるから!!」


「……ユノ/////」


「絶対助ける!!だから…!!」


「うん……うん!!僕、ユノのために頑張る/////」





こうしてチャンミンは手術を受けるため、一ヶ月後、アメリカに発つことになったんだ




























. 愛の詩をきかせて ~仔鹿君の憂鬱~ 20








~Yside~






「さあ着いたよ、おいで」


「あ…はい、ここって?」



高速をとばして一時間ほど、君の手を引いて古びた門をくぐると、様々な木々に囲まれた別世界が広がる



「俺の祖父の家だ」


「……え?」


「見せたいものがある」



まだ戸惑う君の手を引いて屋敷の中へと入った、管理は任せてあるから鍵を開けておいて貰ったんだ



手入れの行き届いた廊下を過ぎて奥の書斎へと、何も変わらない風景が俺を癒してくれる



「さあ中へ」


「あ、はい…………うわぁ/////」



重厚な扉の向こうには壁一面の本棚が広がる、本好きだった祖父の趣味であったコレクション


様々なジャンルの本が並ぶこの部屋は、正に小さな図書館と言うべきか



「凄い、凄いです/////」


「自由に見るといい」


「はい!!/////」



大きな瞳をキラキラとさせて吸い寄せられるように本棚へと近づいていく君



……やはり連れてきてよかった



昼飯返上でここに来てしまったからきっとお腹を空かせているだろうに



今はそれどころじゃないみたいだけど(笑)



ドアに凭れて本と戯れる君を見つめていると、不意に人の気配がしてドアが開いた



「まあ、坊ちゃん!!おかえりなさいませ」


「パクさん坊ちゃんはやめてくれ(笑)」


「あら、私にとっては坊ちゃんはいつまでも坊ちゃんですよ、ほら、頼まれていたものご用意しましたよ」




にっこりと笑って差し出したのはパクさん特製のクラブハウスサンド、ここに来てはよく食べていたっけ



……君と一緒に食べたくて




「チャンミン、お昼にしよう」


「あ……はい/////」




未だ本に名残惜しげな君の手を取って、俺達はテラスで遅めの昼食をとったんだ





































. 夢で逢えたら 19








~Cside~






手術の話をしたら、思ったよりユノの反応が良くなくてちょっと悲しくなった



きっと賛成してくれると思ったのに……



とても不安だったけど、ユノが背中を押してくれれば大丈夫な気がしていたから



ユノは口元に手をあてて、難しい顔でじっと考え込んでしまって



「……チャンミン、その手術のリスクはどうなんだ?」


「…成功率ってこと?」


「ああ、いくら腕の良い医者でも100パーセントってことはあり得ないだろう?」


「………」



そう言われてしまうと僕も困ってしまう……



先生の話では僕の体力次第ってことだから、今の安定した時期がチャンスだって言われたんだ



「ね、ユノ?僕大丈夫だよ?」


「……せっかく逢えたのに、もし君に何かあったら」



ふわりと抱き締められてユノの腕の中、ああ、こんなにも僕のこと考えてくれてるんだ



「チャンミン好きだ」


「………え?/////」


「好きだよ、失いたくないんだ」


「……ユノ……んっ/////」




ユノからの突然の告白に戸惑いながらも、何度となく落とされる唇に、熱くなる体を抑えきれない僕だったんだ
















. 愛の詩をきかせて ~仔鹿君の憂鬱~ 19







~Cside~





「ユノさん!!」


「やあ、待たせたね、さあ乗って」



待ち合わせは僕のアパートの前、こんないい車でお迎えなんて恥ずかしいけど、ちょっぴり嬉しかったりもする/////



車から降りてきたユノさんは、カジュアルなセーターにジーンズ姿で、セットしてない髪はサラサラと風に流れていて



僕はといえば、一応新しいコートを着てきたものの、中身はいつもと変わらないし、なんか釣り合ってない気がしてしまう



「どうした?」


「い、いえ/////」


「そのコート似合ってる」


「!!/////……ユノさんの方がずっと……/////」


「ん?」


「な、なんでもないです!!/////」




こうやってすぐに何も言えなくなってしまう僕、隣にいるだけで心臓が爆発しそうなのに/////



ふわりと髪を撫でられて、ついでに指先で耳の縁をなぞられて変な声とか出ちゃったし



途中信号待ちでは不意にキスされたりして、もうデートの最初から頭は沸騰寸前だよ/////



……ランチは着いてからって言われたけど、一体どこに行くんだろう?



ハンドルを握るユノさんをチラチラと覗いていたら、クールな横顔が不意に笑顔で柔らかくなる



あ……こういうとこ、好き/////



「仔鹿君見過ぎだ」


「ご、ごめんなさい/////」


「いや、嬉しいけど見つめ返せないのがもどかしいな(笑)」


「……/////」


「心配しなくても大丈夫、着いてからのお楽しみだよ」





そう言って僕の髪を撫でるユノさんの手はあったかくて、やっぱり僕の胸はキュッと音を立ててしまうんだ/////



















. 夢で逢えたら 18







~Yside~





「……え?手術?」




チャンミンはこくんと小さく頷くと、俺の顔を真っ直ぐに見上げた



まるで宝石のような瞳には強い意志が溢れていて




「担当の先生から薦められたんだ、僕……受けてみようかと思う」



「……もう決めたの?」



「ううん、一度ユノに相談してからって思って、だって…離れることになっちゃうし/////」



「そっか、アメリカ…だったよな?」



「……うん/////」




突然のアメリカでの手術の話に、ちょっと頭がついていかなかったけど



チャンミンの話では今回の手術が成功すれば、健常者と変わらない生活が送れるようになるらしい、スポーツだって出来るようになる、と……



「僕ね、夢の中みたいにユノとこの家の庭を駆け回りたいんだ」



「………」



「だってずるいよね、夢の中の僕はとっても元気なんだよ?」



「チャンミン………」






そう言って君は悔しそうに俯いてしまうから、俺は君を抱き締めずにはいられなかったんだ






















. 愛の詩をきかせて ~仔鹿君の憂鬱~ 18






~Yside~




あれから会社へと戻り、残っていた仕事を片付けてから自宅へと帰った


時間は真夜中を過ぎてしまったが、週末を君と過ごせると思うと頑張れる



……仔鹿君可愛かったな



チキンを口いっぱいに頬張って、猫のようにくるくると表情を変える君



怒った顔も

ちょっと拗ねた顔も

華が咲いたように微笑む顔も…



君が思うより俺は君に夢中なのに、いまいち伝わってないのが辛いところだ(笑)



家に帰りスマホを確認すると君からのおやすみのメッセージ、ちょっと君に似てるバンビのスタンプ付きで



それと同時に実家からの着信が気になったけど、今は君の事だけを考えていたい……



明日は連れていきたい場所がある



無邪気な君の事だから、きっと何処に連れて行っても喜んでくれると思うけど



……俺の事をもっと知って欲しいと思うから



夜は君の好きな肉でも食べに行こうか、ああ、ドンへにも連れて来いと言われていたっけ




友達に紹介したいと伝えたらどんな顔をするだろう、きっと耳まで真っ赤に染めて、恥ずかしそうに俯いて





君のことばかり考えてつい緩んでしまう口元を押さえながら、俺はゆっくりと目を瞑ったんだ























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紫苑☆

Author:紫苑☆
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