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苺な彼とビールな僕

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. うちの家政婦さん 36










~Cside~








……昼間はとてもいい雰囲気だったと思う






家政婦は夕方5時までって言われて、ご飯の用意の途中だしどうしようって本気で悩んじゃって





思い切って尋ねた時にはクスクスと笑ってアーモンドの瞳を細めていたチョンさん






晩御飯の用意だって手伝ってくれたし、手なんて触れ合った時にはドキドキして心臓が飛び出しそうになっちゃって






なのに…………乾杯して晩御飯を食べ始めてから、なんていうか心ここに在らずって感じで






何か気になることでもあるのかな?


………それとも僕、何かやらかしちゃったとか?






『片付けは後でいいんじゃない?』





なんて言われたけど、それはそれで気になるから放っては置けないし






軽くツマミを残して片付けていたら、チョンさんはフイと部屋を出て行ってしまった






………やっぱり何か怒ってる?





今日1日あったことを思い出してずっと考えていたけど、どう考えても楽しいことしか浮かばない





それとも僕だけが楽しかっただけで、本当はチョンさんは楽しめていなかった、とか?





シンクで洗い物をしながらぐるぐると考えていると悪い考えしか浮かばなくて





僕……もう帰った方がいいのかも……






下唇をぎゅっと噛んで耐えていたけど、たまらず溢れた透明の雫が頬を伝って







僕は思わず外へと飛び出してしまったんだ














. しなやかに眠れ 9










~Cside~









「……っ!!は、離せっ!!///」



「ったく、暴れんな、そんなとこで寝ようとするからだ!!」


「……わっ!!///」





まさかまだ起きていたなんて思いもよらなかった!!




一人でいたくなくてそっと部屋に忍び込んだのに





ドアの前で毛布に包まった所でいきなり抱き締められて、僕はあっという間にベッドへと連れて行かれてしまった!!





「俺の部屋に夜這いとはいい度胸だ」


「よ、よば!?ち、ちが……///」


「襲われても文句は言えねーぞ?」






僕を見下ろすアーモンドの瞳は壮絶な色気を放って目が離せない





……こんなの逃げられるわけないじゃん///





ただ呆然と見つめるだけの僕を、その人はふっと笑って髪をくしゃりと撫でた







「バカ、本気にすんじゃねーよ」


「……え?///」


「今夜は一緒に寝てやる、感謝しろよ?」


「………///」






そう言って僕を包み込む逞しい腕が優しすぎて、僕はベッドに沈み込むように眠ってしまったんだ





















. うちの家政婦さん 35











~Yside~










『チャンミン、家政婦は5時までな』







平静を装って言ったつもりがその後お互い黙り込んじゃって、軽く咳払いで誤魔化すとか






全く付き合いたての学生じゃあるまいし(笑)






いやいや、これからが重要なとこなんだ、成り行きとはいえ告白するチャンスもあったわけだし!!






その後はサクッと買い物を済ませてコテージへと戻り、キッチンでいそいそと用意をする君を目で追いながらもパソコンへと目線を移す





仕事だけは先に済ませておかないと、余計な邪魔が入るかもしれないし(笑)






『チョンさん、5時過ぎちゃいますけどご飯の用意続けていいですか?』






なんて真顔で聞いてきた家政婦君に思わず笑ってしまったけど





まったく君って人はどこまでも俺を夢中にさせてくれる





「乾杯」


「……か、乾杯///」






二人で向かい合ってグラスをあわせ、コクンと飲み干す君の喉がやけに艶っぽいとか





俺ってかなりの重症かも///






どのタイミングで君に伝えようかなんて気が気じゃなくて、せっかくの晩飯も気もそぞろになって







君を不安な気持ちにさせていたことに、全く気がつかなかった俺だったんだ






































. しなやかに眠れ 8











~Yside~









……まだ完全に寝入っていたわけじゃなかった







隣にいる奴の事が気になって眠れないとか、全く俺らしくもない





………チャンミンって言ったな





攫うように家に連れて帰ってしまったが、未成年ってこともあり得る





何か事情があるのかもしれないが、こいつは警察に行った方がいいのかもしれない





ベッドの上で転がりながらそんな事を考えていると、コトリと音がして部屋のドアが開いた





………何だ?





寝たふりをしたまま暗闇で目を凝らすと、毛布に包まったそいつがドアを閉めるのが見えた





やべえ奴だったか、そう思った瞬間、奴は暗闇をすり抜けるように俺の側へとやってきた






「………ありがとう///」






奴はそう小さく呟くとまたドアの方へと戻って行った






なんだ、それだけ言いにわざわざ部屋に?






と、部屋から出て行くのかと思いきや、そいつはドアの前にぺたりと座り込んだ






頭まで毛布に包まってコテンと横になるその姿はまるで捨て猫のようで







……ったく、世話がやける







「おい、そんなとこで何してる?」



「………あ///」








俺はベッドから降りてそいつの腕を掴むと、抱えるようにして毛布ごと抱きしめてやったんだ






























. うちの家政婦さん 34










~Cside~








「わあ、凄い大きなスーパーですね///」



「ああ、ここなら何でも揃うだろ?」



「すいません、連れてきて貰っちゃって///」



「何言ってんだ、そんなのいいに決まってるじゃん!!お、ソフトクリームもある、後で食べようぜ!!」






……そう言ってはしゃぐあなたが可愛くて///





家政婦の仕事で来たはずなのに、綺麗な景色を見ながらお弁当を食べたり、こうやって買い物に連れてきて貰ったり





……こんなんで本当にいいのかな?///





二人でカートを押しながら店内を回って、試食なんかもしちゃったりして





「お!!チャンミンあれも食べたい!!」


「ふふ、お腹いっぱいになっちゃいますよ、晩御飯入らないんじゃないですか?」


「そんなの食うに決まってんじゃん、チャンミンの作る飯は世界一美味いんだからさ」



「………い、言い過ぎです///」






やたらと真剣な目をしてそんなこと言われたら、胸がぎゅっと苦しくなってしまうのに///





「チャンミン、家政婦は5時までな」


「………え?///」


「後は自由の身、だろ?」


「………は、はいっ///」





カートに置いた僕の手に重ねたあなたの手が少し汗ばんでいて、なんだかドキドキしてしまった僕だったんだ




















. しなやかに眠れ 7










~Cside~









『と、とにかく、それ食ったらそこで寝ろ!!疲れてるだろうしな!!///』







そう言ってアーモンドの瞳の優しい人は別の部屋へと消えていった





夜中に食べるチャーハンとスープは酷くあったかくて、なんだか泣いてしまいそうになる





………すげ、久しぶり





寮を飛び出してからまともなご飯なんて食べていなかったし、人と話したのも久しぶりな気がする





ユノ……って言った





見ず知らずの僕を拾ってくれるとか、随分なお人好しじゃない?






……もしかしたら犯罪者かもしれないのに






僕だって誰にでもホイホイついて行くわけじゃない





アーモンドの瞳に吸い込まれるように差し伸べられた手を取ってしまった






食器をキッチンへと片付けて用意された毛布へと潜り込む





せっかくのまともな寝床だっていうのに全く眠れなくて、ゴロゴロとソファを転がった






………もう、寝たのかな?






静かになった隣の部屋をじっと見つめる、他人を泊めておいて先に寝てしまうとか(笑)






でも、今は一人でいたくない、な……







僕は毛布に包まったまま立ち上がると、その人の寝ている部屋の扉をそっと開いたんだ











































. うちの家政婦さん 33










~Yside~









『俺……最初会った時から………』






弁当挟んで二人で向かい合っちゃって、なんかすげーいい雰囲気だし、手なんて握っちゃってるし、絶好のチャンスだと思ったのに!!







『ちょっとー?なんで直ぐに出ないのよ!!』






せっかくの俺の告白タイムを台無しにしてくれたのは編集のボアのヤツ!!





ったく!!タイミング悪い過ぎだってーの!!






結局その後は何も言えずに二人黙々と弁当を食べて、なんだろ、お互い気まずいっていうか、照れ臭いっていうか





こういうのってきっと想いが通じあってんじゃないかって思うけど






ちゃんと言葉にしなきゃ始まらないから!!






せっかくの二人っきりの旅行なんだ、仕事とはいえ丸三日は一緒なわけだし、まだまだチャンスはある筈!!





「そ、そろそろ行こうか///」


「………はい///」





なんだかお互い黙ったまんまコテージへとチェックインして、持ってきた食材を冷蔵庫にしまう後ろ姿をじっと見つめながら






なんかこういうの、いいな……なんて///






「あの………出て行かれますか?」



「ん、ああ、そうだな」



「じゃあ僕買い物行ってこようかな、ちょっと足りないものがあって」



「ん、じゃあ後で一緒に買い出しに行こう、スーパーまで結構距離あるし!!」



「…はい///」







妙に張り切って返事をする俺に、クスクスと笑う君が眩しくて、やっぱり見惚れてしまう俺だったんだ

































. しなやかに眠れ 6











~Yside~









「腹減ってんだろ?食うか?」






店の賄いのチャーハンにご丁寧にスープまでつけてやって、俯いたままのそいつに出してやるとか




俺ってこんな慈善家だったっけか……




まあ、でも大きな瞳をキラキラとさせてがっつくそいつを見ていたら、そんなことどうでもいい気がしてきた




そんなに慌てなくても誰も取りゃしないのに、必死にかき込む姿に思わず笑ってしまう





「………笑ってる」


「ああ悪い、腹減ってたんだって思ってさ」


「………///」


「いいから食えよ、お前名前は?」


「……………チャンミン」


「チャンミンか、いい名前じゃねーか、俺はユノってんだ」


「………ユノ」



「うん?」



「……あ、ありがとう、あの………///」






スプーンを持ったまま潤んだ瞳で見つめられて、思わず視線を泳がせた





こいつはやばい、吸い込まれてしまいそうだ





「と、とにかく、それ食ったらそこで寝ろ!!疲れてるだろうしな!!///」



「………うん///」







なんとも言えない甘い空気に耐えきれず、誤魔化すようにベッドルームへと向かう俺だったんだ


































. うちの家政婦さん 32











~Cside~








「えっと、あの………チョンさん?///」






おしぼりを渡そうとした僕の手をぎゅっと握ったまま黙ってしまったチョンさん





燃えるように熱い視線で見つめられて息もできないほど





………ど、どうしたのかな///






おしぼりを握ったまま両手を包まれてどうしていいかわからない




口の横についたお米が気になっちゃうけど、その隣にあるホクロが色っぽいなんて思ったりして




二人で暫く見つめあっていたけど、でかい男が二人で手をにぎりあうとか、側から見たらさぞかし不思議な光景だよね







「……チャンミン、俺、俺さ」



「……は、はい///」



「俺……最初会った時から………」







………こ、これってもしかして!!!!///






チョンさんの言葉に思わずごくんと唾を飲み込んだ瞬間、突然鳴り響く電話の音





「うわあっ!!///」


「えっ?ああっ!!///」





二人ともが驚いて同時に両手を離してしまったから、おしぼりがおかずの上に落ちちゃって






焦ってアタフタしてる間に電話は切れちゃうしで(笑)






結局はロマンチックな雰囲気はどこかへいってしまって、二人で吹き出してしまった僕達だったんだ


















. しなやかに眠れ 5











~Cside~









『チャンミン、あなたは私の天使なの』







思い出すのは僕を抱き締める優しい手、薄れゆく記憶の中それだけは鮮明に覚えている





物心ついた時には母は亡くなっていて、僕は片田舎にある施設で育った





施設の人達はとても親切だったし、兄弟達も大勢いて寂しくはなかった





高校を出ると同時に調理学校に入り、併設しているレストランで寮生活を始めた





慣れないことばかりで辛い時もあったけど、いつかシスター達に恩返しがしたいと、そう思って生きてきたのに






『チャンミン!!あなたのお父様から連絡があったの』







そんな電話が来たのは1ヶ月ほど前だっただろうか






母が家庭のある人と恋に落ちて僕を産んだことは知っていた





そして、父がどこか大きな会社の社長であることも





母は父を恨んではいなかったし、寧ろ僕に会わせてくれたと感謝しているほどで





でも……僕は病がちだった母を見捨てた父に会いたくなんてなかった!!






『あなたのお父様が施設に寄付をしてくださったのよ』





そんな風に話すシスターに何も言うことなんてできなくて






僕は………寮を飛び出した






あてもなく彷徨う日々に疲れ果て、挙句にはお金持ち使い果たして途方に暮れていた時






『お前綺麗だな、いくら?』






街で声をかけてきたチンピラに絡まれて、路地裏に引きずり込まれて……





どうにか振り切って逃げてきたものの、空腹と疲労で立ち上がることも出来なかった





ゴミの間に隠れるように座り込み、このまま消えてしまいたいと思ったのに







『おい!!お前大丈夫か!?』








そんな僕を拾ってくれたアーモンドの瞳が優し過ぎて、泣きそうになってしまった僕だったんだ































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紫苑☆

Author:紫苑☆
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