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. 君に会うまで 16
~Cside~
「はじめまして、うちのがいつもお世話になっております!!」
「やあ、君が噂のご主人だね、チャンミンさんから話は聞いているよ?」
仕事終わりに店に駆けつけると既にパーティはたけなわで、初めて会うカン先生も少し酔っているようだった
……でも、ちゃんと挨拶が出来て良かった
取引先で晩飯でもと誘われたがそれはテミンに任せて、タクシーに転がるように乗ってやってきたから
あまりの俺の慌てように目を丸くする俺の奥さんは、クスクスと笑いながら水を持ってきて
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ?///」
なんて言いながらネクタイを直すから思わず押し倒しそうになっちまった
隙を見てつるつるの頬にキスをしたら、真っ赤になって睨まれたけど
可愛くてつい、からかっちまうんだよな///
初めて会ったカン先生はとても感じのいい方で、良かったら一緒にどうぞ、なんて言われちまって
結局は二人で先生のテーブルで話し込んでしまった(笑)
まわりでケーキにはしゃぐ子供達が騒いでいるのが心地よく感じられて
こういうの、いいな…なんて
そんなことを考えていると、不意にスマホから着信を知らせるランプが目に入った
……姉貴から?珍しいな
なんだか胸騒ぎがしてスマホをタップすると、慌てた様子の姉貴の声
『ユノッ!!大変よ、お祖母様が倒れたの!!』
いつもとは違う口調の姉貴の声に、バクバクと心臓が音を立てはじめたんだ
. ユノ社長は新人秘書がお好き 8
~Yside~
……ふふ、とんだ新人君だ(笑)
倉庫での初顔合わせに思わず口元が緩んでしまう、見かけはモデルのようなのに随分と慌て者のようだ
まるでバンビのような瞳をくるくるとさせて……
「……社長?」
「ああ、なんだイトゥク」
「いえ、思い出し笑いなど珍しいかと」
「ふふ、そうだな」
「……後ほど新人を紹介したいのですが」
「ああ、会議後に連れてきてくれ」
「はい」
自分では抑えてるつもりだったが、イトゥクに見られていたとは
まあ、あいつに隠し事はできない、かな
入社した時から俺に付いて仕事をしてきたんだ、これは気をつけないと(笑)
さて、シム・チャンミン……
イトゥクの用意した履歴書を見る限り、学校の成績などは優秀でなかなかいい大学を出ているのに
家の事情で就職できずに今に至るというわけか
ふむ、これは拾い物かもしれない、会社にとっても俺にとっても
これは毎日楽しくなりそうだ(笑)
この出会いが人生で一番の運命的なものだったなんて、この時の俺は全く気付いていなかったんだ
. 君に会うまで 15
~Cside~
「チャンミン少し顔色悪くない?」
「………え?」
パーティ当日、仕込みや店の飾り付けでいつもよりは早く家を出た僕
……そういや昨日からあまり食べてなかったかも
「ここはいいから少し休んで?その様子じゃ朝もロクに食べてないんだろう?」
「でも………」
「人をもてなすには自分も笑顔でなきゃいけないだろ?とりあえず腹を満たして少し休憩しろ」
「……イェソンさん///」
心配したイェソンさんに言われるままに用意されたサンドイッチを頬張って、店の休憩室で少し横になった
……肝心な時にダメだな、今日は頑張んなきゃいけないのに
病院の院長であるカン先生、今日は親戚一同が集まって奥さまのお誕生日を祝うとか
恐妻家だって看護師さん達は話してたけど、奥さまのこととっても愛してるんだよね
何年経っても変わらない愛情を注いでくれるなんて、なんていい旦那様なんだろう
僕とユノもそうなれば、いいな///
そんな事を考えながら少し眠ってしまったようで、目を覚ましたのはパーティが始まる30分前!!
慌てて厨房へと戻ればイェソンさんに思い切り背中を叩かれて、痛くて思わず声を上げてしまった
「「「いらっしゃいませ!!」」」
店のスタッフの声に空気は一瞬にしてピンと張り詰める、さあいよいよ始まる!!
「やあシムさん、今日はよろしく頼むよ」
にっこりと笑うカン夫妻を席へと案内して、パーティは始まりを迎えたんだ
. ユノ社長は新人秘書がお好き 7
~Cside~
『ふふ、お疲れ様、水でもどうかな?』
やっと倉庫での片付けを終えて座り込んでいたところに不意に声をかけられて、思わずフリーズしてしまった
「………え?あ、えっと?///」
カツカツと近づいてくる靴音、目の前でミネラルウォーターを差し出されてハッと我にかえる、この人ってもしかして………
「初めまして新人君、社長のチョン・ユンホだ」
「!!!!す、すいません!!僕っ……わっ!!」
慌てて立ち上がると目の前にアーモンドの瞳があって思わず後ずさる、うわっ!!至近距離だと凄い迫力!!!!///
「ぷっ、新人君は随分と慌て者だな(笑)」
「す、すいませんっ!!/////」
「それを飲んだら戻って来なさい、後汚れた顔も洗ってね?」
「……へっ?///」
クックッと肩を揺らしながら去っていく彼は、後ろ姿も男らしくて見惚れるほどで
まるで夢のような出来事に思わず頬を抑えて自分を落ち着かせる
……噂通りのイケメン社長、どうしよう!!初対面でこんな変なところ見られちゃったし、しかも挨拶もしてない!!!!
ぐるぐると考えているとテミンさんが顔を覗かせる、ああ、部屋に戻らなきゃなのに
「チャンミン終わった?どうしたの?顔赤いよ?それに鼻の下汚れてるし(笑)」
「………へ?……あ、あの///」
「とにかく一旦ここから出よう、ね?」
「は、はい///」
まだ呆然としたままの僕をテミンさんは抱えるようにして、倉庫から連れ出してくれたんだ
. 君に会うまで 14
~Yside~
『準備があるので先に出ます、ちゃんと朝ご飯食べてくださいね』
パーティ当日の朝は起きたらもういないとか、全くどんだけ気合い入ってんだよ
昨日も夜遅くまで店の飾り付けの下準備をしていて、なんでも帰りに寄った雑貨屋で子供が喜びそうな可愛い小物があったとかで
飯もロクに食べないから無理やり休ませたって感じだったけど
………あまり顔色も良くなかったな
とりあえず今日が終われば珍しく連休取るって言ってたし、ゆっくり休ませてやらなきゃ
俺はといえば今日は外に直行直帰で気楽なもんで、取引先の新店を回って打ち合わせをして、後はチャンミンの待つ店に向かうだけ
パーティ自体は夕方からだって話だし、挨拶にはちょうどいい時間になるだろう
「いいなぁ、パーティとか、うちの部署でもやりましょうよ~」
「パーティってガラじゃねぇだろ(笑)」
「忘年会でもいいですし、あ!!クリスマスパーティなんてどうです?」
一緒に取引先を回る予定のテミンが隣で盛り上がってるけど、クリスマスはもちろんチャンミンと2人で
誰にも邪魔されたくないし、な…
「なんですニヤニヤしちゃって」
「べ、別に///」
「どうせチャンミンさんの事でしょう?相変わらずラブラブですね~」
「るせっ!!///」
「早く済ませて僕も一緒に連れてってもらおっと」
「!!おいテミン///」
なぜか一緒に店についてこようとするテミンに呆れながら、俺達は早足で取引先へと向かったんだ
. ユノ社長は新人秘書がお好き 6
~Yside~
「…は?新人?」
「はい、以前にお話したと思うのですが…」
「……優秀か?」
「さて、それはまだ……ビジュアルだけは完璧ですが(笑)」
「室長お得意の感ってやつか、まあいい、出来ない奴は切るまでだ」
「………御意」
昨日は日帰りの出張で遠出をしていたから1日ぶりの出社となるが
…またイトゥクが新人を入れたらしい
春に入った新人がとんでもなく根性のないやつで、俺がさっさと首を切ってしまったから人員補充は考えてはいたが
中途で入ったものも今ひとつで仕事も続かず、これは春の新人に期待するかと諦めかけていたところだった
そんなに仕事がキツイわけじゃないが、イレギュラーな出張とか、プレゼン前の集中残業とか
なかなかついていけない者も多くて、入れ替わりの激しい部署ではあるから
どれ一つ顔を拝んでやろうと秘書室を覗いてやったのに、生憎新人くんはテミンと倉庫の整理をしているらしく
暫くするとテミンだけが戻って来客の対応をしていて、これはあまりにも遅すぎないか?
いつもなら新人のことなんて気にもしないのに何故か今日は気になって、部屋を出るついでにそっと倉庫を覗いてやった
『んしょっと、重っ!!』
薄暗い倉庫で揺れる長身のシルエット、長めの髪が汗でひたいに張り付いてキラキラと輝いて
……随分とスタイルのいい子だな
開いたままの入り口に凭れて彼の働きっぷりを見つめていたが、どうにも頼りなくて思わず笑ってしまった
『はあ~疲れた』
『ふふ、お疲れ様、水でもどうかな?』
俺の言葉に驚いて見上げるバンビアイがあまりにも綺麗で、暫く目が離せなかった俺なんだ
. 君に会うまで 13
~Cside~
お祖母様が何ともなかったって聞いて本当に安心した
とても、痩せてしまった気がしていたから……
今度の休みには文句を言いに行くんだってユノは息を巻いていたけど(笑)
きっと一番心配していたんだよね……
ユノからのメッセージの最後には、今度のパーティの席で先生に挨拶するつもりだ、なんて書かれていて
嬉しくて思わず声を上げそうになって焦ってしまった
いつだってユノは僕の事を考えてくれてるって実感してしまう
こういうの、幸せっていうんだよね///
この前家で悩んでいたメニューも一通り決まったし、ユノの提案でイチゴのスイーツも追加して
……ユノのぶんは置いといてあげないと
きっと自分の食べたいものを言ったんだと思うし(笑)
料理って誰かに喜んでもらえるのが一番励みになるから、最近のメニューはユノ寄りになってるかもしれないな
買い出しはイェソンさんに任せて後は店の中を軽く飾り付けて
子供もくるって話してたから取り分けのお皿は紙皿がいいかな?
帰りに近くの雑貨屋さんに寄って帰ろうか……
その時の僕はパーティのことに気を取られてすぎて、自分の体調が悪いことに全く気づいてなかったんだ
. ユノ社長は新人秘書がお好き 5
~Cside~
「じゃあこれはこっちへ」
「はいっ!!」
「これはこっち、ああ!!それはそこじゃない!!」
「……へっ?はいっ!!」
「だから違うって!!」
「す、すいませんっ、わっ、わああっ!!」
ドサドサと落ちてくる書類の山、そう、僕は今まさにテミンさんと倉庫の整理をしていて
「あ~やっちゃったね、とりあえず起きて、怪我はない?」
「は、はい、すいません///」
「僕より背が高いからいけるって思ったけど、チャンミンってもしかしてドジっ子なの?」
………ど、ドジっ子!?/////
「とりあえずここ片しといて、そろそろお客様がくるから僕もどらなきゃ」
「はい、すいません///」
「また後で覗きにくるね、もし終わったら部屋に戻ってきて?」
テミンさんはスーツについた埃をパンパンと払うと早足で倉庫から出て行った
………はあ///
そういや子供のときもそんなこと言われたっけ、ああ、こんな所でもドジを炸裂させてしまうなんて先が思いやられる
本人はいたって普通にやってるつもりなのに、なんかやらかしちゃうんだよね
お、落ち込んでても仕方ない!!とりあえず書類の山から抜け出して種類毎に分けて棚へ
5年分だけ残しておくように言われたからそれ以外のものは台車に乗せた箱の中へと選別していく
埃が凄いからハンカチをマスクがわりにしていたから終わる頃には汗だくになっていた
「はあ~疲れた」
「ふふ、お疲れ様、水でもどうかな?」
「………へっ?///」
座り込んだ床から見上げるドアの前、長身のシルエットがゆらりと揺れると、アーモンドの瞳の人がにっこりと笑って立っていたんだ
. 君に会うまで 12
~Yside~
「……え?何ともなかった?」
「そうなのよ~全く心配させてくれるわ」
「そ、そっか……よかった」
ばあちゃんのことで姉貴に呼び出された時はヒヤッとしたけど、何とも無くて本当に良かった
「あんなに弱ってたからほんと心配したわよね、アレはねほら、普段病気とかしないから~」
「病は気からってやつか」
「そうそう、あら、なんて顔してんのよ、しっかりしなさいよ!!歳なんだから何があるかわかんないのよ!!」
そう言って俺の肩をバシバシと叩く姉貴、ったく見かけによらず力が強いっての!!
ま、思ったより俺も気にかかっていたようで力が抜けちまったけど
とりあえずチャンミンに連絡を入れて安心させてやらなきゃな
ああ、そうだ、今日はパーティの下準備で忙しいって言ってたっけ
俺はスマホを手に取るとメッセージだけを送ってホッと息をついた
こっちの仕事は少し落ち着いたから独立のことも少しずつ進めていきたいと思ってる
でも、チャンミンにあんまり負担かけるのも……な
子供でも出来たら金もかかるだろうし、何より大切にしてやりたいから!!
今度の休みには時間も出来るだろうからまたばあちゃんの顔でも見に行ってやるか
文句の一つも言ってやらなきゃ!!
とりあえずはチャンミンが奮闘している金曜のパーティに顔を出して挨拶、だな
一度会ったっきりだったし
ちょうどその日は取引先から直退の予定だし、そのまま店に向かえばいいか
心配事がひとつ減って、ホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間、週末にまたひと騒動起きるなんてこの時の俺は思いもしなかったんだ
. ユノ社長は新人秘書がお好き 4
~Cside~
「ふう、疲れた」
どうにか出社1日目を終えて家へと帰ると窮屈なスーツを脱ぎ捨ててベッドへとダイブする
いつもなら帰ったらすぐにシャワーを浴びるところだけど、流石に今日は疲れたな
本当なら春から正社員として別の会社に勤める筈だったのに、自営業を営む父が急遽入院することになって
しかも無理が祟ってか三ヶ月の長期入院、自営業といってもど田舎のスーパーで、家族で切り盛りしていたからドライバーの父の入院は大変な痛手で
僕は仕方なく就職を諦めて店を手伝っていたってワケ
で、夏にはすっかり元気になった父に追い立てられるように就職活動に乗り出したけど
まあ、当たり前に就職先が見つかるわけもなく
大学のときバイトしていたカフェの店長に頼み込んでまた働き始めた矢先のことだった
『あれ?君、卒業したんじゃなかった?』
そう言って声をかけてくれたのはイトゥクさんその人で、この店の常連さんだったから色々と話したら、その……イトゥクさんの勤め先で働いてみないかって言われて
まさか秘書室長だなんて!!
確かにどこか品があるし知的なサラリーマンだとは思っていたけど
憧れちゃう、よね///
それにもっと楽しみなのはチョングループを纏める社長のチョン・ユンホ!!
確か年は30を過ぎたくらい?
週刊誌でちらっとみたことがあるけど長身で切れ長の目をしたかなりのイメケンだった
明日は出社するってテミンさんが話してたし、緊張してヘマをやらかさないように気をつけなくちゃ
明日への期待と不安で膨らむ胸を抑えながら、今日貰ったマニュアルをパラパラと捲る僕だったんだ