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. バンビな君にくびったけ 10
~Yside~
ぬふ、ぬふふふふふふ、ぬふぬふっ……♡
朝から店のガラスを拭きながらニヤニヤが止まらない、もう擦り切れるほど綺麗に磨いてしまうぜ!!
そう!!俺はとうとうバンビ先生を飯に誘うことに成功したんだ!!!!
最初は早とちりしちまって、てっきり断られたって思って走り去ろうとしてたのに、先生に引き止められちゃってOKの返事を貰っちゃって
思わず腰が抜けてその場に座り込んでしまったけど、クスクスと笑うバンビ先生が手を貸して起こしてくれて……/////
『金輪際とか言ったらダメですよ?寂しいじゃないですか!!/////』
なんて、頬を膨らませて怒られちゃって、もう俺のハートはドキュンドキュンにやられちまってる
ぎゅうぎゅうに握りしめてた花束は少し萎れてしまったけれど、バンビ先生は嬉しそうに手に取って
『ありがとうございます、お花大好きなんです』
なんて言われちゃったら、そのまま後ろ向きに倒れるほどの破壊力で、もうそれからニヤニヤが止まらないんだ/////
頭に血が上った俺は連絡先も交換しないで帰ろうとしたから、またまたバンビ先生に呼び止められちゃって
『ほんとチョンさんて面白い方ですね/////』
なんてクスクスと笑う君に鼻の下は伸びっぱなしで(笑)
「げっとしたぜ~~ふんふ~ん♪君のハートもげっとだぜぇ~~はぁん♪」
即興ソングもバッチリ決まったところ、後ろから姉貴にパコンと殴られて『マジキモい!!』なんて言われても全然大丈夫な俺なんだ
. あの空の向こうに 16
~Yside~
これは夢なのかな?チャンミンに抱き締められているなんて……夢なら覚めないで欲しい
そう願いながら細い体にそっと腕を回した
鼻腔に広がるあなたの香り、幼い頃は何も考えずに胸に顔を埋めていたのに、こんなにも甘くて切ないものだったなんて
「ユノ?ね、聞いて、僕は迷惑だなんて思っていないよ」
「……」
「それにアメリカに行くのもユノのせいなんかじゃない、以前に希望を出していたから……まさか自分が推薦して貰えるとは思ってなかったけどね」
チャンミンはそう言って体を離すと、ベンチに座って俺の手を優しく握った
俯いたままの俺にふわりと触れる前髪、目の前には優しいチャンミンの顔があって、そして唇が重なった
……え?今のって、キス……!?/////
触れるだけのキスは一瞬で、スローモーションのように離れていく唇を呆然と見つめた
ちらりと俺を見て視線を逸らしてしまったあなたは、耳まで真っ赤に染まっていて
「……チャンミン?/////」
「ぼ、僕の気持ち/////」
「それって……!?」
「そ、そういうことなの!!/////」
「チャンミン!!」
「……わっ!!ユ、ユノ!!/////」
俺はチャンミンを抱きよせると、2度と逃さないように腕の中に閉じ込めたんだ
. バンビな君にくびったけ 9
~Cside~
「お、俺とっ!!めめめめ飯でも行きませんか?」
チョンさんは目をぎゅっと瞑って僕に花束を差し出した、突然のその行動に暫くフリーズしてしまったけど、これってまるでデートの誘い……?/////
……デ、デートとか!!/////
「あ、あのチョンさん?/////」
目を薄っすらと開けてちらりと僕を見るチョンさんは耳まで真っ赤になってるし、花束もぎゅうぎゅうに握っちゃって
「……や、やっぱりダメですよね(泣)」
「…あ、あの/////」
「す、すいません!!無理なお願いしちゃって!!お、俺のことは金輪際忘れてくださいっ!!ううっ(泣)」
漫画みたいにがっくりと肩を落とすと、ぺこりと頭を下げて走り去ろうとするチョンさん!!
ダメダメ、金輪際とかダメに決まってる!!
僕は慌てて彼の腕を掴んで引き止めた、振り返るチョンさんは不安げに僕の顔を見るとまた俯いてしまって
「ふふ、ほんと慌てん坊さんですね」
「……へっ?/////」
「いいですよ、ご飯行きましょう」
「へっ?へえええっ!!!!/////」
チョンさんは変なさけび声を上げたまま、その場に座り込んでしまったんだ
. あの空の向こうに 15
~Cside~
慌てて大学を飛び出したものの、ユノの行き場所なんて検討もつかなかくて
それでも幾つか思いつくままに歩き回って、途方に暮れていた
ふと思い出したのは海の見える公園、昔よく2人で遊びにいったっけ
家からは歩いていける距離だし、スマホも財布も置きっ放しだって母さんが言っていた
……もしかしたら
人気のない公園、外灯に照らされてベンチに座る広い背中……
空を見上げているのは泣いているから?
後ろから近づくと振り返る君は、アーモンドの瞳を潤ませて僕を見上げた
「見つけた」
「……チャンミン」
自分のマフラーを外してユノの首に巻きつけた、触れた頬の冷たさがどれだけ長い時間ここにいたか教えてくれる
「こんなに冷えちゃって、母さんが心配してたよ」
「俺……」
「ん?」
「……俺っ、俺の言ったことはチャンミンには迷惑でしかなかった?」
「え……」
「……俺のせいで家を出ていくの?」
「ユノ……」
そう言って俯いてしまう君は、まるで捨て猫のように震えていて
ああ、やはり傷つけてしまったんだ、目の端にはキラリと光る透明な雫
僕は堪らずユノを抱き締めた、冷えてしまった心ごと温めるように
僕の想いが君に伝わるように………
. バンビな君にくびったけ 8
~Yside~
「ほら!!ちょっとあんたここに座りなさい、さあ、一体どういうわけなのか話してちょうだい?」
閉店前の片付け途中、商店街から戻った姉貴に詰め寄られ、俺は正に絶体絶命のピンチ!!
目の前に迫るのは魔神ボア!!俺はさしずめ怯える子羊ってところだろうか……いや、迷える子猫とか?それとも……?
「ちょっとユノ聞いてんのっ!?」
「ひいっ!!はいいっ!!」
どうやら俺が東方保育園の周りをウロついているのを近所の噂好きなおばちゃんに見つかってしまったらしく、それを耳にしたもんだからこうやって尋問……いや、質問されているわけで(泣)
大切な想いは胸に秘めていたかったのに、くうう、俺は画して姉貴に全てを話す羽目になってしまった
一通り話を聞くと、黙ったまま腕を組んで動かない姉貴、全く、なんでこんなに迫力満点なんだ!!だから彼氏が出来ねーんじゃないのか?
「ユノっ!!」
「ひいっ!!ごめんなさいっ!!」
「ばかね、何謝ってんの?グズグズしてないで花でも買ってそのシム先生とやらに申し込みに行って来なさい」
……今なんつった?花?も、申し込み……!?/////
「あんたがストーカー紛いの行為で通報される前に、ちゃんとアタックして電話番号なりなんなりゲットしてくんのよ!!ったく、ほんとバカなんだから!!」
「姉貴……」
「ほら、店は閉めとくから行っておいでってば!!善は急げよ!!」
「あ、ありがとう!!」
俺は姉貴に背中を押されるように店を出て、保育園へと自転車を走らせたんだ
. あの空の向こうに 14
~Yside~
チャンミンがアメリカに行ってしまう……
そんな事実が受け入れられず家を飛び出してしまったものの、スマホも財布も持っていなかった
俺ってほんとバカだな……
重い足取りで辿り着いたのは、丘の上にある海の見える公園、昔チャンミンとよく遊びに来ていた思い出の場所
子供の足では遠かったこの公園、自転車の後ろに乗って、細い背中にぴったりと寄り添って
あの頃からあなたのことが好きで、好きで、大好きで……
大きくなった今でも想い続けているなんて、俺ってどこかおかしいのかもしれないな
一際大きな木の下のベンチに座り、ぼんやりと景色を眺めていた
冬の公園は行き交う人もいなくて、ただ、海からの風が俺に冷たく吹き付ける
なんだか涙が溢れそうで、自分が情けなくて思わず空を見上げた
不意に気配を感じて後ろを振り返ると、外灯に照らされる細いシルエット
「見つけた」
そこには、優しく俺を見つめる…チャンミンの姿があったんだ
. バンビな君にくびったけ 7
~Cside~
偶然なのかもしれないけど、なんだか毎日のようにチョンさんに会うような……/////
僕の思い過ごしかな?
園児達のお散歩の時間の時はお店のガラスを掃除していたり、あと園庭にいたら変な歌を歌いながら通りかかったり
今日はどんな風だろう、なんて、会うのが楽しみになっちゃったりして(笑)
子供達も毎日のように会っているから、すっかりチョンさんに懐いちゃって
最近は納品もチョンさんが来るようになって、子供達とじゃれ会う姿もイケメンで
かっこいいな、なんてつい見惚れちゃってる自分にびっくりなんだけど……
僕、おかしいよね?/////
まだそんなに話したこともないのに、何故だか昔から知っているように安心できる不思議な人
一度ゆっくり話してみたいな…
そう思っていた矢先、いつものように子供達を門のところまで見送ると、チョンさんがひょっこりと顔をのぞかせた
「チョンさん?ふふ、またお会いしましたね」
「あああああのあのあのっ、せんせぃっ!!/////」
「はい?(笑)」
「お、俺とっ!!めめめめ飯でも行きませんか?」
「……へっ?/////」
目の前にいきなり小さな花束を差し出され、僕はその場でフリーズしてしまったんだ
. あの空の向こうに 13
~Cside~
「……え?アメリカ、ですか?」
「そうなんだ、フィラデルフィアにある提携大学でね、新しく研究チームを組むんだけどシム君もどうかと思ってね、大学卒業と同時に、どうだい?」
突然降って湧いたアメリカ行きの話、しかも長くて2年は帰ってこれないそう
今までの僕なら喜んで参加させて貰ったのに、やはり頭に浮かんだのはユノの顔
きっと反対するだろうな……
いや、それどころか僕が家から出ていくのは自分のせいだと思ってしまうかもしれない
僕を推薦してくれたパク教授は、1週間ほど返事を待ってくれると言っていたけど、これはもう決定事項な気がする
ユノには直接話をしなくちゃ……
そう思っていた矢先、間の悪いことにユノにアメリカ行きの話が伝わってしまった
電話での母さんの慌てように、尋常じゃなかったユノの様子が伺える
「チャンミンごめんなさい、まさか聞かれていたなんて」
「いいんだよ、僕が早くに話さなかったのが悪いんだ、ちょっと心当たりを探してみるよ」
「ええ、お願いするわ、こっちも探してみるから」
スマホを握りしめるとコートを持って大学を飛び出した、遅くまで残っていたせいですっかり日も暮れている
木枯らしの吹き始めた冬の風に、震える君の姿を思うと走り出さずにはいられなかったんだ
. バンビな君にくびったけ 6
~Yside~
愛しのバンビ先生と顔見知りになってから、園児達の散歩で店の前を通る時には必ず会釈してくれるようになったんだ
まあその……俺が店のショーウィンドウ的なものに張り付いているからなんだけども/////
初めて俺だって分かってくれた時は、大きな瞳をくるくるとさせて、もう、可愛すぎて萌え死ぬかと思ったけど♡
最近では、俺に対して恥ずかしそうにはにかむ笑顔も、段々と柔らかくなってきたような……
これって、少しくらいは脈があるってことじゃね?/////
偶然を装って、納品帰りに園の周りをぐるりと回ってみたら、これまたタイミングよくバンビ先生が園庭の草引きなんてしちゃってて
やっぱり二人は運命なのか、なんて一人で納得したりして
木陰からこっそり覗き見していると、少し汗ばんだ首筋に光る汗、キラキラと輝いて、滑らかな肌を撫でるように落ちていくとか……!!/////
……ああ、いっそあなたの汗になりたい!!!!
拳を握りしめ、今の気持ちを歌にしてみる、いくぜ!!俺の即興ソング!!
「ああ~~今日も君に恋してる~その、キラキラ光る雫になりたい~んだ~~♪はぁ~♪」
俺ってば、ついでかい声で歌っちゃって、バンビ先生に見つかって笑われちゃったけど
「チョンさんてやっぱり面白い人ですね/////」
なんて、極上の笑顔で言われてしまって、ますます君に夢中になってしまう俺なんだ
. あの空の向こうに 12
~Yside~
こんな曖昧な、でも少し心地いい関係が暫く続いていて
俺の想いに応えて欲しいけど無理強いは出来ないから、ゆっくりでいいって思っていたのに
偶然にも父さん達が話していた、チャンミンのアメリカ行きの話を耳にしてしまった
「チャンミンがアメリカに行くってどういうことだよ!?」
俺のいきなりの剣幕にオロオロとする母さん、父さんは呆れたように小さく溜息をついた
「ユノ、聞いていたのか」
「ちゃんと説明しろよ!!」
「そんなに大声をださなくても、チャンミンは直接お前に話すって言ってたから、私達は黙っていたんだよ」
「……は!?」
「チャンミンが大学院に進む事が決まっているのは知っているな?」
「ああ」
「アメリカの提携大学の研究チームに呼ばれたそうだ、長くて2年、早ければ1年でこちらに戻って来るということだ」
「……2年」
一瞬にして頭が真っ白になった、なんだよそれ!!なんでそんな大切なこと言ってくれないんだ!?
……まさか俺が告白してしまったから、この家に居づらくなって……とか!?
辿り着いた考えに呆然とし、拳をぐっと握りしめて唇を噛んだ
もしかして俺のした事はチャンミンを苦しませていただけなのか?
……俺の身勝手な想いだった?
父さんが何か言おうとしたけど、俺はそのまま家を飛び出してしまったんだ